四月
馬鹿
/伊丹

エイプリルフールなんざ、糞食らえだ。

息抜きにやってきた無駄に風が強く吹く、テラス。
煙草の煙を吐いていたら、は慌てた様子でやってきた。
「伊丹さん!芹沢先輩が結婚するって知ってました?」
「はぁ?」
「私知らなくて、さっき芹沢先輩が」
真剣に驚いているようなので、俺より断然低い頭をグシャグシャと混ぜてやった。
「な、んですか!」
「ぶぁーか、お前担がれたんだよ芹沢に。カレンダーくらい見ろ」
「は?見てますよ、今日から四月・・・・・・あ」
「分かったかよ」
「エイプリルフール、私騙されたんですか?」
「ったくそんなのに引っかかってんじゃねぇよ」
「そんな事言われても・・・微妙な嘘過ぎて分からないじゃないですか」
俺が乱した髪を撫で付けながら、が芹沢に対して口を尖らす。
・・・ったく、本当にこれだから。
「オイ」
「ハイ?」
見上げてきた不思議そうな顔。
それにいつものように笑いながら。
「好きだ」
言った瞬間の固まった表情。
「え・・・・・・、あ、エイプリルフール!」
固まった間抜け面はすぐに溶けてしまったけど、それが本当に間抜けだったので。
「な、なに笑ってるんですか!」
手すりにすがりついて、大爆笑。
当然のように憤慨したが俺の肩を強く揺らす。
「伊丹さん!」
「ククッ・・・」

騙されたと怒ってもらって構わない。
どうせエイプリルフールにしか本音が言えないような、馬鹿なのだから。





午前中/亀山

「よぉ、
自動販売機で飲み物を買っていたら、声が掛けられた。
顔を上げれば、特命係の亀山先輩。
「あぁ、どうも」
ミルクティーの缶を取り出しながら会釈をする。
「一人か?」
「えぇ。まぁいつも一緒に居るわけじゃないですよ。先輩もそうでしょう?」
笑って返せば、まぁな、と先輩も笑い自動販売機に硬貨を入れた。
「なんかすげー炭酸飲みたくなってさー」
炭酸ジュースのボタンを押す。ガコンと取り出し口で音がした。
「あぁ、ありますよねそういう時」
「だよなぁ……あ、あ…」
「はい?」
缶を取り出しながら先輩は何か思い出したように腕時計を見た。
何か約束でもあったのだろうか、と自分も休憩場に掛けてある時計に目をやる。
もう少しで長針と短針がてっぺんで重なろうとしていた。
「そういやぁ、知ってるか?」
時計から先輩に目を移す。
亀山先輩は缶のプルトップをカシュッと開けて一口飲んでから続けた。
「芹沢の奴、結婚するんだって」
「はっ?」
「あ、やっぱ聞いてない?決まってから教えるとか言ってたからなぁ〜」
妙な笑い方をする先輩の表情に、ピンときた。
エイプリルフールだ。
さっき本人に引っ掛けられたばかりの嘘。
思わず少し噴き出す。
「なんだ?」
「エイプリルフールでしょう、先輩」
「げ、なんで分か…あ」
ミルクティーに口をつけながらまた笑う。
「さっきそれ芹沢先輩にやられましたよ」
「なんだよ、アイツ誰にでもやってんのか。俺も朝やられたんだよ」
「あはは」
「12時まであとちょっとあったからさ」
缶を傾けながら腕時計を見る先輩につられてまた掛け時計に目をやる、後5分くらいで12時だ。
「あぁ、知ってる?嘘をついていいのは午前中なんだってよ」
「あー」
「俺もさっき右京さんに教えてもらったんだけど。午後はネタばらしの時間なんだって」
その話なら確か聞いた事がある。
そう頷こうとして、私の中でちょっとした悪戯心が芽生えた。
時間はまだ午前中。
「あれ、その話…確か違いますよ」
「んー?」
「嘘をついていいのは確か日が昇ってる間ですよ。ネタばらしは日が沈んでからです」
「へ?」
「……先輩、杉下警部にも…」
少し同情するような表情で言うと、亀山先輩は見る見るうちに「やられた!」という顔になった。
「ちっくしょ!あーもーあの人は真顔で嘘ついてくれちゃって…!」
文句を言いに行く、と足早に去って行った。
「引っかかりやす……」
基本嘘をつく方に回れる人じゃないのだと思った。
「警部に迷惑掛かるな……まぁ、いっか」
温かい缶を持ったまま一課に戻った。



「はっ?嘘じゃないんですか!?」
「えぇ、僕は基本的には嘘はつきませんよ?さんに一杯喰わされましたねぇ」
「だぁー!の奴…!」
「よ、暇そうだなぁ、亀ちゃん。何叫んでんだよ」
「あ、課長…そうだ、課長知ってますか、芹沢の奴が…」
「亀山君、もう12時を過ぎましたよ」
「右京さぁん…」





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種類は違えど愛すべきおばか。