殺人的日射
「あっち・・・」
「今日今年一番の暑さですって」
「マジかよ・・・。ったく、ホシは帰ってこねぇし・・・」
都合よく駐車出来る場所がなく、物陰に隠れてホシの家を見張っていた。
情報としては昼間に家の出入りは少ないのだが、しらみつぶしに探さないといけない今の状況ではやむを得なかった。
「もうすぐ交代ですよ伊丹さん」
「あぁ」
景色に溶け込むように、はす向かいのマンションの前で話し込んでいるという設定。
日除けになるものがない炎天下で、互いに汗を掻きながらホシの家を睨む。
「・・・・・・チッ」
「あっついですね・・・」
自然を会話も減り、暑さを訴える言葉ばかりが口をつく。
「日射病とかで倒れる人今日多いでしょうねぇ・・・」
「油断なんねぇかんなぁ、お前もちゃんと水分取れよ」
「伊丹さんも取った方がいいですよ」
「言われなくても取ってる」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「殺人的に暑いって言うんですかね、こういうの」
「あぁ?」
「この日射で私が死んだ場合って、太陽がホシって事になるんですかね?」
突拍子もない発想に、頭が茹ったのかと伊丹はを怪訝に見やる。
「馬鹿かお前、日射病で死んだらそりゃ病死だろうが、大体太陽を逮捕なんざ出来ねぇっての」
汗で張り付いた前髪を掻き上げながらは苦笑した。
「分かってますよ、言ってみただけですって」
「わけ分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ」
言って、手に提げていたビニール袋からペットボトルを取り出し蓋を捻る。
ペットボトルを傾けながら、喉を潤す。
雲一つ見当たらない、青い空が電線の向こうに見えた。
ミネラルウォーターを飲む伊丹を眺めながら、は少し微笑む。
「伊丹さんが日射病で死んだら・・・」
伊丹が視線を寄越す。
「私は太陽でもなんでも、捕まえに行きますよ?」
「・・・・・・」
一瞬止まった表情が、すぐさま眉間に皺を寄せたものに変わっていく。
乱暴にペットボトルに蓋をすると、その大分軽くなったペットボトルでの頭を叩いた。
「痛・・・」
「くだんねぇこと言ってんじゃねぇよ、おめぇは」
「すみません」
「笑ってんじゃねぇよ!」
「すみません」
丁度交代の時間になり、芹沢と若い刑事のコンビがやってくる。
「お疲れ様です。あれ、伊丹先輩、焼けました?顔真っ赤ですよ」
「てめぇはうっせぇよ!」
同様に芹沢の頭にもペットボトルが降る。遠慮のない音が響く。
「いったぁ・・・、え、何でですか」
「チッ。・・・オラ、行くぞ」
「あ、はい。じゃあ後はお願いしますね。すみません」
頭を摩りながら不可解な顔で芹沢は首を傾げた。
少し離れた駐車場に停めた車まで歩く。
まだへそ曲がりが直らないかとは話しかける事なく伊丹の横を歩く。
「殺されたら」
ポツリと呟かれた言葉には顔を上げる。
「捕まえてやるよ。・・・・・・太陽は無理だけどな」
不自然に逸らした視線が、彼の本心のように思えて嬉しくて微笑んだ。
返答のないに伊丹はチラリと視線を下ろす。
「・・・何笑ってんだよ」
「すみません」
直らない緩んだ頬に、伊丹は大きく舌打ちする事しか出来なかった。
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夏に書いたものです。