好きだなんて言ったこともなかったくせに


天気予報なんて当てにならない。
何度目か分からない舌打ちをして、視線を上げる。
暗澹たる雲はどこを見渡しても切れる事なく続いている。
「・・・止まねぇ」
昼飯後の一服をせずに戻れば降られずに済んだかもしれない。
走れば十分も掛からず着くだろうが、びしょ濡れになってまで走ろうとはさすがに思えない。
「・・・チッ」
雨宿りに入ったバス停の屋根の下、点けた煙草はすでに短くなっている。
連絡は入れたから急がなくてもいいが・・・
「ついてねぇな」
煙と共に小さく吐いた。

これだから雨は嫌いなんだ。
事件の証拠は洗い流すし、濡れたら着替えが必要だし・・・。

「あれ、伊丹さん」
「あ?」
不意に名前を呼ばれ振り返ると、見知った後輩の姿。
たった今出て行ったバスから降りてきたようだった。
「どうしたんですかこんなところで」
「どうしたもこうしたもねぇよ、雨宿りしてんだよ。お前こそなんだよ」
「昼ご飯の帰りですよ」
バス使ってわざわざ食いに行くのかよ。
短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
「傘ないなら一緒に・・・・・・あぁ!」
「あぁ?なんだよ」
突然の大声に少し驚く。
するとは道路を振り返り、困った顔で俺を見上げた。
なんなんだよ。
「傘・・・」
「傘?」
「バスの中に置いてきました」
「・・・・・・馬鹿かお前は」
呆れて言うと、のムッとした顔。
「・・・・・・念のために持ってきただけ伊丹さんより偉いと思いますけど」
「それをバスん中に置いてきちゃ意味ねーだろうが」
「・・・まぁ、待ちますか」
「チッ・・・。ったく、お前が忘れなきゃ帰れたのに」
新しく煙草を取り出して、それを咥える。
隣りに立って空を見上げながらは、凄い降ってますねぇとどうでも良い事を口にした。
「でもまぁ、いいじゃないですか」
「あぁ?」
「こうやって雨待つ事が出来るのも。事件がなくて忙しくない、平和な証拠ですよ」
「・・・まぁな」
事件が発生すりゃタクシー代なんて考えずにとっとと署に帰ってる。
火を点けようとライターを擦るが一向に火が点かない。
「チッ、しけってやがる」
「最近特に忙しかったから、こうやってゆっくり喋る時間も悪くないです」
「・・・・・・」
「私は個人的には雨は結構好きなんですよ。刑事としては証拠が流れるから嫌いですけど」
「・・・・・・」
「伊丹さんは雨嫌いそうですよね」
笑うように聞いてくるに、俺は思いもよらない事を口走る。
「いや、個人的になら・・・好きだ」
「え、ホントですか。意外ですね」
「・・・・・・フン」

しけって点かない煙草を折る。
意味のない嘘をついた。馬鹿だ。大馬鹿だ。
好きだなんて言ったこともなかったくせに。

これだから雨は。
コレだからコイツは。






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意味のない嘘をついた意味。